各国で電気自動車普及のための政策が打ち出され、実際に普及率が上がってきています。それに伴い、電気自動車用の充電設備もインフラ整備の一環で目にする機会も増えてきました。
今回の記事では、電気自動車の普及はどの程度進んでいるのか、今後どのように進んでいくのか。機械式駐車場における課題を解説しています。充電設備を導入するにはコストも掛かるため慎重な検討が必要です。
充電設備を導入するかどうかは、電気自動車の抱える課題などを理解した上で導入するかを決めるべきでしょう。充電設備の導入をどのようにすればよいか悩んでいる方は参考にしてみてください。
各国の電気自動車の動向

電気自動車の動向が、各国でどのようになっているのかをまずは理解することが必要です。次の項目に沿って解説します。
- 主要国のEV政策や普及状況
- トランプ大統領のEV優遇見直し
- ハーツレンタカーのEVからエンジン車への切り替え
- テスラのEV部門での大規模なリストラ
それぞれの内容を詳しくみていきましょう。
主要国のEV政策や普及状況
主要国のEV政策や普及状況をまずはみてみましょう。米国では、2024年のBEV(バッテリーEV)普及率は約9%となり、2021年の3.2%から着実に増加してきました。
米国では、バイデン政権下で導入された最大7,500ドルの税額控除がEV普及に貢献してきました。ただし、2025年1月に就任したトランプ大統領がEV優遇策の見直しを進めており、今後の普及ペースには不透明感が漂っています。州ごとに異なる補助政策があるため、地域ごとの普及率にも差が生じています。
中国では、2024年にNEV(新エネルギー車)の販売シェアが月次で50%を超える月も出てきており、年間では約45%に達しています。政府の補助金や税額免除などの支援策に加え、BYDをはじめとする国内メーカーの価格競争力が普及を加速させています。
欧州では、2024年のBEV普及率は約14%となりました。ドイツでの補助金廃止の影響で一時的に鈍化しましたが、2025年から適用されるEUのCO₂排出規制強化により、メーカー各社はEVの販売比率を引き上げる必要があります。北欧諸国では普及が進んでおり、ノルウェーではBEVの普及率が90%を超え世界最高水準を維持しています。
出典:COX AUTOMOTIVE/EV Sales Reports(Kelley Blue Book推計)
出典:IEA/Global EV Data Explorer
トランプ大統領のEV優遇見直し
2025年1月に就任したトランプ大統領は、バイデン前政権が推進してきたEV普及策の見直しを進めています。就任直後の大統領令で、EPA(環境保護庁)の排ガス規制強化を撤回し、2032年までにEV販売比率56%を求めていた目標を事実上白紙にしました。
また、カリフォルニア州のZEV規制の特例(CARBウェイバー)の取り消しにも動いており、最大7,500ドルのEV税額控除についても議会を通じた廃止・縮小が進められています。こうした政策転換はEV市場に不透明感をもたらしており、メーカーの投資計画にも影響が出始めています。
ハーツレンタカーのEVからエンジン車への切り替え
米国のレンタカー大手ハーツ・グローバル・ホールディングスは、2024年を通じて約2万台のEVを売却し、エンジン車への再投資を進めました。EV車両の減価償却で約2億4,500万ドル(約355億円)の損失を計上しており、修理コストの高さや利用率の低さが主な要因です。
ハーツの事例は、EVの保有コストが従来車両より高くなりうることを示す象徴的なケースとして注目されています。企業のEV導入においても、減価償却や修理費を含めたトータルコストの見極めが重要であることを改めて浮き彫りにしました。
出典:Bloomberg/レンタカーのハーツ、電気自動車2万台を売却へ─ガソリン車に再投資(2024年1月)
テスラのEV部門での大規模なリストラ
テスラは2024年4月、全体の約10%に相当する約1.4万人の大規模な人員削減を実施しました。2024年通年の世界販売台数は約179万台にとどまり、同社として初めて前年割れを記録しています。
CEOのイーロン・マスク氏がトランプ政権のDOGE(政府効率化局)に関与したことで、テスラのブランドイメージへの影響も指摘されています。一方で、テスラのスーパーチャージャー網は世界最大のDC急速充電ネットワークとして拡大を続けており、充電インフラの面では依然として存在感を示しています。
出典:Reuters/Tesla to lay off more than 10% of workforce(2024年4月)
国内の機械式駐車場におけるEV充電設備設置の現状と課題

国内の機械式駐車場では、EV充電設備の設置に関していくつかの課題があります。充電器を設置する際には、電気の契約を見直さなければなりません。分電盤に空きスペースがあるか、契約しているアンペア数が十分かどうかなどの確認が必要です。
ブレーカーの増設が必要な場合、基本料金が上がる可能性があるため、コスト面にも注意が必要となるでしょう。一方で、東京都では2025年4月から改正環境確保条例が施行され、新築の大規模建築物に対してEV充電設備の設置が義務付けられました。既存物件は対象外ですが、充電設備設置は今後さらに広まっていく見通しです。
機械式駐車場としてEV充電設備を設置すべきかどうかは、国内の普及状況だけではなく、EVが抱える課題を理解した上で慎重に進めなければなりません。
EVとして、どのような課題が浮き彫りになっているかをみていきましょう。
【夏場】電気不足の問題
トヨタ自動車の豊田章男会長は、日本自動車工業会の会見で、国内の全車両がEVに置き換わった場合、夏の電力使用ピーク時に電力不足に陥る懸念を示唆しました。
電力不足を解決するためには、原子力発電所で10基、または火力発電所で20基の増設が必要と指摘しています。
しかし、すべての車両がEVに置き換わるまでには相当な年数が掛かるため、その間に対応策を講じる時間は十分にあるとする意見もあります。夏場の電力不足に対する指摘は、EVの普及が進む中で、電力供給の安定性を確保するための重要な課題となっており、エネルギー政策やインフラ整備の見直しが求められていくでしょう。
出典:東洋経済ONLINE/課題山積でも「日本でEV普及が急加速できる」根拠
東京都のソーラーパネル設置義務とは
東京都では、2025年4月から新築住宅などへの太陽光発電設備の設置が義務化されました。この制度は、東京都が掲げる2030年までに温室効果ガスを50%削減する構想の一環です。
対象は年間供給延床面積2万㎡以上の大手ハウスメーカーが建設する新築住宅で、住宅の面積などによっては設置が免除されるケースもあります。なお、住宅用のソーラーパネルとは別に、大規模なメガソーラーについては環境規制が強化される方向にあり、太陽光発電を取り巻く状況は一様ではありません。住宅用ソーラーで得た電力をEV充電に活用する動きも始まっており、EV充電設備との連携が今後の注目点です。
EVの減価償却効率の問題
EVは、ガソリン車に比べて燃料費が抑えられる一方で、減価償却の効率が悪い課題があります。EVの市場価格は需給バランスや技術進化によって変動しやすく、中古車としての残存価値が読みにくいためです。
前述のハーツの事例でも、EV車両の急速な値下がりが巨額の減価償却損につながりました。さらに、EVは修理に掛かるコストや時間がガソリン車よりも多い点も懸念材料です。バッテリー交換や専門整備に対応できる工場が限られることが、修理期間の長期化やコスト増に直結しています。
EVの寒冷地では性能が悪くなる?
EVは寒冷地での性能低下も課題です。氷点下20度以下の厳寒地シカゴでは厳しい寒さの中でテスラ車が充電速度の低下や充電機能の不具合に見舞われ、充電スタンド前で長蛇の列が発生しました。
低温環境がバッテリー内部の化学反応を抑制し、充電や放電などの物理的プロセスを遅らせることが原因とされています。さらに、寒冷地でのEV運用では、ヒーターの使用による航続可能距離の短縮も課題です。
寒冷地では車内を暖めるためにヒーターを使用する必要がありますが、ヒーターはバッテリーから直接電力を消費します。そのため、ヒーターを使用するとバッテリーの消耗が早まり、結果として航続距離が短くなることが避けられません。
出典:ForbesJapan/「EVの航続距離」は氷点下の気温で大幅に減少その原因と対策
EV充電設備のコストが掛かる
充電設備には普通充電器と急速充電器の2種類があります。集合住宅向けの普通充電器は、本体が30万〜50万円程度、設置工事を含めると1基あたり100万〜200万円が目安です。急速充電器(50kW級)は本体だけで300万〜500万円、設置工事を含めると500万〜1,000万円以上になるため、集合住宅への導入は現実的にはハードルが高いのが実情です。
なお、経済産業省の「充電インフラ整備促進補助金」を活用すれば、機器費用の一部がカバーされるケースもあります。補助金の条件は年度ごとに異なるため、導入を検討する際は最新の募集要項を確認するとよいでしょう。ランニングコスト(電気代・保守費)も含めたトータルコストの見極めが重要です。
ハイブリッド車(HV)の可能性

ハイブリッド車の可能性に再び注目が集まっています。ハイブリッド車のメリットと現在の普及状況をみてみましょう。HVとEVどちらが今後主導権を握っていくのかは、機械式駐車場として充電設備を設置するタイミングにもつながる重要な要素です。
ハイブリッド車(HV)のメリット
ハイブリッド車(HV)のメリットは、ガソリン車と電気自動車(EV)の双方の利点を兼ね備えている点です。HVには主に3つの方式があります。
1つ目は、エンジンを発電専用に使用し、電気で走行を行う方式です。2つ目として、エンジンを走行に使用し、モーターがサポートとして機能する方式もあります。3つ目は、エンジンとモーターを最適に使い分け、EVとしての走行やガソリン車としての走行を適宜選択する方式です。
HVは状況に応じてエネルギー効率の最適化が可能です。結果として、ガソリン車よりも低燃費を実現し、EVのような充電が不要となる点がHV車のメリットとして挙げられます。
ハイブリッド車(HV)の普及状況
2023年以降、主要国でのEV販売台数の伸び率はハイブリッド車(HV)を下回る傾向が続いています。充電インフラの不足やEVの減価償却の問題が顕在化したことで、HVが「現実的な選択肢」として再評価されています。
特に日本では、トヨタのハイブリッド戦略が改めて注目されており、国内新車販売に占めるBEVの比率は約3%にとどまっています。充電設備の整備が進まない集合住宅や機械式駐車場においては、HVやPHEVの方が導入しやすい面があります。
また、米アップルがEVの開発を中止し、独フォルクスワーゲンがEV工場の稼働率を引き下げるなど、完全EV化への道のりが当初の想定ほど直線的ではないことも明らかになってきています。
まとめ

今回の記事では、電気自動車の普及動向と機械式駐車場における充電設備導入の課題を解説しました。中国や欧州ではEV普及が加速する一方、米国ではトランプ政権によるEV優遇策の見直しが進み、日本国内のBEV普及率は約3%にとどまるなど、地域や政策によって状況は大きく異なります。
機械式駐車場に充電設備を導入するかどうかは、建物の受電容量やパレット構造上の制約、入居者のEV保有状況を総合的に見極めた上で判断することが重要です。東京都では2025年4月から新築建築物へのEV充電設備設置が義務化されており、既存物件でも今後対応を求められる可能性があります。
充電設備の導入を検討する際は、まず現在の受電容量や分電盤の状況を確認し、複数の業者から見積もりを取得して比較検討することをお勧めします。
機械式駐車場の保守点検・緊急故障対応を25年にわたり現場で経験。部品の調査・選定から積算、工事管理までを一貫して手がけるベテラン技術者です。
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