機械式駐車場は本当に「負の遺産」かデータで見る駐車場収入の実態と、安易な撤去が招くリスク

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機械式駐車場は本当に「負の遺産」か

テレビやネットニュースで「マンションの機械式駐車場がガラガラ」「撤去に700万円」といった報道が話題になることがあります。しかし、こうした報道の多くは都心の一部の極端な事例を取り上げたものであり、駐車場収入がマンション運営にとってどれだけ重要かという視点が抜け落ちています。 本記事では、国土交通省の調査データと不動産市場の最新動向をもとに、機械式駐車場の「収益資産」としての実態を整理します。施設オーナーや管理会社が撤去・縮小を検討する前に押さえておくべきポイントをまとめました。

駐車場使用料はマンション運営の「生命線」
管理費の約3割を占める見えにくい収益源

国土交通省が2024年6月に公表した「令和5年度マンション総合調査」によると、駐車場使用料等を含む管理費の全国平均は月額17,103円/戸です。一方、駐車場使用料を除いた管理費は月額11,503円/戸にとどまります。

項目 月額/戸
管理費(駐車場使用料等の充当を含む) 17,103円
管理費(駐車場使用料等の充当を除く) 11,503円
差額(駐車場収入からの充当分) 約5,600円(約33%)

出典:国土交通省「令和5年度マンション総合調査」(2024年6月公表)

つまり、管理費の約3分の1は駐車場収入で賄われているのが全国的な実態です。駐車場を撤去すれば、この収入源が消失します。同じ管理水準を維持するには、管理費を約33%値上げするか、サービスの質を落とすかの選択を迫られることになります。 例えば、FNNプライムオンライン「車離れでガラガラ…金食い虫と化した機械式駐車場」(2026年1月)では「空きがあると年間600万円の維持費」という側面が強調されていますが、駐車場が稼働していれば管理費・修繕積立金の双方を支える収益エンジンであるという事実を見落としてはいけません。

「空き駐車場」報道が映さない構造的な背景
都心の空きは「車離れ」だけでは説明できない

テレビ報道で取り上げられる「4割が空き」「撤去に700万円」といった事例は、築25年以上・都心部のマンションに集中しています。これらの物件には共通する構造的な背景があります。 住民の高齢化による車の手放し:現在空きが生じている物件の多くは、新築時に入居した住民がそのまま高齢化したケースです。これは「車離れ」というより世代交代の過渡期にすぎません。

不動産価格の高騰による中間層の購入困難:首都圏の新築・中古マンション価格は上昇を続けており、特に東京23区では高騰が顕著です。ファミリー層が都心部の物件を購入しにくい状況が続いています。 車高制限と現行車種のミスマッチ:1990年代に設置された機械式駐車場の多くは、車高1,550mm以下の制限があります。現在主流のSUVやワンボックスは入庫できず、住民が敷地外の駐車場を契約するケースも報じられています。

注目すべきは、都心部でもコインパーキングの空きがほとんどないという現実です。駐車場の需要自体が消えたわけではなく、マンション内駐車場の「仕様」が現行の車種に合っていないことが空きの主因の一つです。 さらに視野を広げると、タワー式駐車場の需要は依然として旺盛です。都市部の再開発では駐車場附置義務を限られた敷地内で満たす必要があり、タワー式は不可欠な存在です。車高1,550mm以下の小型区画でも、保険会社や建設・設備会社、製品配送業者が社用車として使うプロボックスや軽自動車の収納需要が安定しています。「空き駐車場」報道はマンション内の一部の事象にすぎず、機械式駐車場全体の需要が衰退しているわけではないことを押さえておく必要があります。

不動産のプロが見る「駐車場ニーズ」の最新データ
購入検討者が最も重視する設備は「駐車場」

不動産業界の実態を示す興味深いデータがあります。アットホーム加盟店293店を対象にした調査(2026年1月実施、健美家掲載)によると、2025年に問い合わせが最も多かった設備は「駐車場(近隣含む)」で52.6%。2位のオートロック(35.2%)を大きく引き離しての1位です。

順位 設備 問合せ割合
1位 駐車場(近隣含む) 52.6%
2位 オートロック 35.2%
3位 エレベーター

出典:アットホーム加盟店調査(2026年1月実施、293店対象)健美家掲載

不動産会社からは「マンション内の駐車場は満車なことが多く、機械式に入らないことで購入を諦めるケースがある」というコメントも寄せられています。 さらに、新築マンション価格の高騰が続く中、中古マンション市場がファミリー層の主戦場になりつつあります。都心の新築が手の届かない価格帯になれば、郊外の中古物件に目が向きます。郊外では車が生活必需品であり、近隣に月極駐車場の空きがない物件も少なくありません。

つまり、「駐車場がある」ことが中古マンションの資産価値を左右する時代が来ています。駐車場を安易に撤去した物件は、この52.6%の購入検討者を最初から失うことになります。

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撤去より「最適化」という選択肢
収益資産を守りながら空きを解消するアプローチ

空き駐車場への対応は「撤去」だけではありません。収益資産として維持しながら稼働率を改善する方法が複数存在します。 段数縮小による車高制限の緩和:パレットを1段減らすことで、SUVやワンボックスに対応できるよう車高制限を引き上げる改修方法があります。収容台数は減少しますが、利用率の向上で収支を改善できるケースが多く、メーカーも対応しているところがあります。

稼働率の可視化と料金設定の見直し:まず現在の稼働率と駐車場収支を正確に把握することが出発点です。空き区画が出ている場合でも、近隣の月極相場と比較した料金改定や、外部貸しの検討で収入を維持できる可能性があります。 保守コストの最適化:空きがある状態でも機械式駐車場には保守費用が発生します。現在の保守契約が適正かどうか、複数メーカーに対応できることが一般的な独立系メンテナンス会社から相見積もりを取得し、コストの比較検討を行うことをおすすめします。

2026年3月の東京都区部消費者物価指数(コアCPI)は前年同月比+1.7%と物価上昇が続いています。建設資材も高騰しており(H形鋼+43%、アルミ地金+109%:2021〜2026年比、日建連調べ)、撤去・新設のコストは今後さらに上昇する可能性があります。「いずれ撤去するから」と放置するのではなく、今のうちに最適化を検討することが長期的なコスト削減につながります。

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「負の遺産」か「収益資産」か ── 答えは物件ごとに違う
メディアの結論ではなく、自物件のデータで判断する

一方で、忘れてはならない現実もあります。駐車場を維持し続ける限り、管理費・保守費は経年とともに上昇していきます。世代交代に合わせてコストを圧縮すれば負担は軽くなりますが、話はそう単純ではありません。インフレ局面では不動産価値そのものが上がり、賃貸に出せば家賃も上昇します。管理コストは増えても、資産としての価値も同時に動いているのです。

さらに、駐車場を撤去すれば管理費の約33%を占めていた収入源が消え、管理費の値上げか管理水準の引き下げが必要になります。これは利回り計算上、物件の資産価値そのものを押し下げる要因です。しかし逆に、稼働率が極端に低い物件では、維持費が収入を上回り続ける状態もまた資産価値を毀損します。 つまり、「負の遺産」か「収益資産」かという問いに、すべての物件に当てはまる唯一の正解はありません。テレビの報道を見て「うちも撤去しなければ」と慌てる必要はないし、「駐車場は資産だから絶対に残すべき」という結論も正しくありません。

不動産の資産価値だけを考えれば、駐車場は維持したほうが有利です。しかし、マンションに住んでいるのは投資家ではなく、そこで日々の生活を送っている人たちです。住民の高齢化が進み、車を手放した世帯が増えた物件では、「30年後の資産価値」よりも「来月の管理費負担が軽くなること」のほうが切実な場合もあります。 不動産価値の最大化と、住民のライフステージに合った負担の軽減は、必ずしも同じ方向を向きません

ただし、撤去の判断には一つ重要な前提があります。駐車場の撤去は事実上、不可逆の決断です。撤去には数百万円の費用がかかり、再設置にはさらにそれ以上のコストが必要になります。近年の新築マンションでは定期借地権70年の物件も増えており、海外のように長期にわたって修繕しながら住み続ける時代に変わりつつあります。築20〜30年の時点で現在の住民構成だけを見て撤去を決めてしまえば、その後40〜50年にわたって入居する若年世代の選択肢を奪うことになりかねません

駐車場の有無は若いファミリー層の購入判断に直結します。撤去によって一時的に管理費負担が軽減されても、若年世代が入ってこなくなれば住民の高齢化がさらに進み、マンションの活力そのものが失われる悪循環に陥る可能性もあります。 だからこそ、撤去の議決には現在の住民だけでなく、将来の住民構成と需要の変化まで視野に入れる必要があります。自物件の稼働率・駐車場収支・近隣相場・住民構成の変化を具体的な数字で把握した上で、撤去・縮小・最適化のどれが最も合理的かを多世代の視点で判断することが大切です。本記事で紹介したデータが、その判断材料の一つになれば幸いです。

出典・参考資料

  • 国土交通省「令和5年度マンション総合調査結果〔概要編〕」(2024年6月公表)
    mlit.go.jp(PDF)
  • 健美家「2025年 問合せが多かった設備~購入編~ランキング」(2026年3月12日掲載、アットホーム加盟店293店調査)
    kenbiya.com
  • FNNプライムオンライン「車離れでガラガラ…"金食い虫"と化した機械式駐車場」(2026年4月1日再掲、元記事2026年1月8日配信)
    fnn.jp
  • 総務省統計局「消費者物価指数(CPI)」2026年3月 東京都区部(コアCPI 前年同月比+1.7%)
    stat.go.jp
  • 一般社団法人日本建設業連合会「建設工事の資材価格高騰」2026年2月版
    nikkenren.com(PDF)
吉岡 慎太郎(営業部主任)
この記事の監修者 吉岡 慎太郎営業部 主任(業界リサーチ担当)|宅地建物取引士

宅地建物取引士。新設マンション施工管理からキャリアをスタートし、装置入替え・保守点検・管理組合営業を経験。現在は大手商業施設を中心にタワー式駐車場の保守管理に従事。

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